今更ながら書く感想

 

2014年とは一体どんな年だったかと尋ねられると、「たまこラブストーリーの年だった」と答えてしまうほどに、その作品のことが常に頭の片隅にあった一年だった。そしてそれは年を越して随分と経った今になってもさほど変わることはなく、今も頭の片隅にあり続けている。まるで取り憑かれてしまっているかのように。

劇場で見て、その後Blu-rayを購入した。そして昨年末にノベライズを購入して、先日ようやく読み終えたのでこの作品についての感想を書き残しておきたいと思った。

この作品について長々と説明をすることは野暮だと思うし、実際に作品を見ることの方がよっぽど有意義ではあるが、とにかく思うままに感想を書く。

 
 青春

「青春」と呼べることの可能な時期は、人生においてとても短い期間。しかしながら一瞬の期間であるからこそ、魅力的に思える。特にその期間を既に過去のものとしてしまった者にとっては。だからこそ、「青春」をテーマとした作品は数多くあるのだろう。

自身においてその青春の時期がどうだったかは、今思い返すと良い思い出ばかりであったように思える。でも青春の真っ只中にあった時には、全てが退屈に思えたり、もっと面白い出来事が舞い降りてこないだろうかなんて考えていたり、満たされていない気持ちを常に抱えていたような印象がある。だがそれも、今となっては全て過去の思い出の一部。

 

たまこラブストーリー』という物語は、まさに青春の真っ只中にあるキャラクターたちの話。これからの進路、卒業までに作る思い出、友情、恋愛。おおよそ誰しもが経験するであろう「青春」という時期に降りかかる出来事の断片を詰め込んだ話。そして見ているこちらが恥ずかしくなってしまうほどに、ド直球な恋愛の話。

 

名シーン

 この作品にはいくつも名シーンが出てくる。それを逐一挙げていくとキリがないが、個人的に挙げるとするなら2つ。そしてこの2つは見ている人の多くが印象に残っているシーンだと思う。ひとつは、もち蔵がたまこに告白するまでの一連の流れ、もうひとつはクライマックス。

 

ひとつめ。トイレの前のみどりともち蔵のシーンから始まる一連の流れ。「めっっっっっちゃ見てるね、たまこのこと」というみどりのセリフ。告白を、みどりに背中を押される形で決意するもち蔵。

その後、場所は学校から鴨川デルタへと移り、たまこともち蔵の二人だけの場面。(スタッフコメンタリーでの説明で初めて気付いたが、徐々に空が夕方から夜へと変わっていく。夜へと近づいていくこの効果は、幼なじみ・同級生という二人の関係性が、異性へと向かうことを狙ったのかもしれない)もち蔵の、今まで何年も言えずにいた感情が堰を切る。その言葉に動揺するたまこ。告白というシリアスな場面でありながらも、結果笑いを誘う演出で締める。

この重要なイベントの後に、もち蔵から逃げるように商店街を駆け抜けるたまこの心象風景が現実の風景へと反映されるシーンが、個人的には特に好きだったりする。いつもと変わらない商店街の人たちの声が、加速するスピードに流れていって、今まで当たり前のように見えていたものが形を失う。恋をするとはどういうことなのかが、あのぼんやりとした色彩がたまこの周囲を流れていく、という一瞬のシーンに詰まっている。まさに世界が一変しているその瞬間。

 

ふたつめ。この作品における一番の名シーンとも言える、クライマックス。駅のホームで向かい合うたまこともち蔵。宙を舞う糸電話。もち蔵の告白に対するたまこの返答。そしてブツリと寸断される形で物語は幕を閉じ、エンドロールへと続く。余韻を、見終わった後もずっと引きずってしまう終わり方。それでもこれ以上「その後」を描かれていたらシラけてしまうし、後に続く物語の全てを観客に委ねたこの終わり方は、これ以上無いものだと思っている。

その本編の後どうなったかについては、サントラのジャケットが全てを語っているのだろう。 

映画「たまこラブストーリー」オリジナル・サウンドトラック  

 『たまこラブストーリー』という物語は、たまこともち蔵の関係が、向かいの餅屋の幼なじみという関係から恋人へと変わる、このクライマックスシーンへと至るための物語であると言える。しかし、やはり今作においての最重要人物といえば、たまこでももち蔵でもなく、みどりであるように思う。ノベライズを読み終えた今となっては、尚更その気持ちが強い。

 

みどりについて

たまこラブストーリー』はそのタイトル通り、中心にはたまこともち蔵のラブストーリーという軸があるが、それだけではなくて、登場するそれぞれのキャラクターたちが一歩未来へ踏み出す物語でもある。

かんなは大工になるために高所恐怖症を克服する。しおりは不安を抱えながらも留学を決意する。たまこは今まで持っていなかった恋愛という感情を抱く。もち蔵は今までずっと抱えていたたまこへの恋愛感情を全て吐き出し、加えて映像の勉強をしたいという自身の将来を具体的なものにする。

それぞれが分かりやすい形で、前向きに未来へと踏み出していくが、みどりだけがどこか置いてけぼりであるような印象を初めて見た時に抱いた。彼女だけが、他のキャラクターの未来を見届ける立場であることを受け入れているような。それは彼女が他のキャラクターよりもほんの少しだけ大人びている、という点も大きいかもしれない。

映画ではあまりよく分からなかったみどりの心情が、ノベライズでは詳細に記されている。『たまこまーけっと』から『たまこラブストーリー』までを見た印象だと、みどりはたまこへ淡い恋心のようなものを抱いているのでは?と思っていたがそれは浅はかで、実際は恋なんてものよりももっと大きな愛情をたまこへ注いでいたことを知る。それは亡くなってしまったたまこの母親代わりに(実際は姉のような立場ではあるが)、たまこの手を引っ張って導いてあげること、そしてたまこを色々なことから守ってあげること。だからこそ、みどりはもち蔵に敵対心のような感情(傍目からは恋のライバルに映るような)を抱いていたのであって、たまこを自分の手から離したくなかったことが分かる。

友情とか愛情とかいったものよりも、そうした簡単な単語では表現できないような感情をたまこに抱いていて、そしてたまこのことを見守る役目を自分の意志で、自然に受け入れていた。

たまこラブストーリー』において、みどりの立場はまさしく彼女が目指そうとしていた母親の位置のように思える。娘(たまこ)の気持ちを尊重し、娘(たまこ)が決意した行動を決して咎めずむしろ後押しする。クライマックスシーンを演出したのは間違いなくみどりによるもの。それは直前の教室のシーンで顕著だが、もったいぶったみどりの言い回しと、それを嘘とは思わず信じてみどりの横を駆け抜けるたまこ。全てやり切った、と言わんばかりに、かんなと共に大声を上げながらグラウンドを走るみどりの姿は、どこか吹っ切れたような印象を受ける。

こうして、みどりは未来へと一歩を踏み出すことが出来た。しかしその一歩は、たまこがもち蔵へ思いを告げることが必要な条件だったということは何とも切ない。

 

視点

 この作品を見ていて、自然とたまこやもち蔵たちにすんなりと感情移入することが出来たが、それは私自身が彼らと同世代ではないにしても、まだまだ学生時代の思い出が色褪せていないからかもしれない。というよりも、過去の思い出に囚われて抜け出せていない証拠とも言える。だから今は彼ら彼女らの視点に立つことが出来ていて、同じような目線で物語を見ていられる。ただ、この作品にはまさしく老若男女のキャラクターたちが登場する。今後自身が年を重ねた時に、いつかはたまこやもち蔵の両親や、商店街の人たちの視点に変わっていくのだろうな、と想像するとそれはそれで面白そうな気がしてくる。

ただ願うならば、ずっとたまこやもち蔵たちの視点を抱き続けていたい。たとえそれが、年齢に相応しくない幼さからくるものであったとしても。 こうした視点・感情に共感できなくなってしまうことの方が、よっぽど退屈だから。

 

最後に

劇場で見てから、今現在に至るまで心を掴んで離さないこの作品は、自身の生涯において重要な作品の一つであることは疑いようのない事実。ふとした瞬間に、数ヶ月・数年おきに確実に見返すだろう。そしてその都度、新たな発見をしたり、新たな感想を抱いて、満ち足りた気分になるのだろう。そうした魅力がある作品。何度も繰り返して見ても、絶対に飽きることのない魅力が。

やはりそれは「青春」や「恋愛」といった普遍的なテーマを扱った作品だから、ということはもちろんあるけれど、それを見ているこちらが思わず赤面してしまうほどに真正面に据えていることが何よりも重要な点。だからこそ、何度も見返したいと思ってしまう。

「青春」をテーマにした作品に触れた時、よく 「自分もこういう青春時代を送りたかった」という気持ちに襲われてしまって自然と落ち込んだりもしてしまうが、この作品を見た時にはそうした感情が湧いてこなかったことが、自分自身でも不思議に思う。

少しは大人に近付けたのかもしれない。でもそれは、どことなく寂しさも感じてしまう。あぁ、自分も「青春」と呼べる時期が身近にあった頃とは程遠いところまで来てしまったのだなぁという寂しさ。過去に縋りたいという気持ちと、それではいけないという感情の狭間で、少しずつ自身の「青春」が遠ざかっていく。

そんな忘れてはいけない青さを、この作品を見ることによってわずかながらも補って、そうやってこれからも生きていく。これから死ぬまでの間に何度もこの作品を見返すだろうし、ずっと近くにあり続けるのだろうな、ということは常々思っている。そしてこの気持ちはきっと変わることがないのだろうな、とも強く思う。

 

とりあえず、また改めてBlu-rayを再生することから始めたい。過去には戻ることが出来ないけれど、過去に思いを馳せることはいつだって出来る。そうしたきっかけを作ってくれるこの作品のことを、これから一生大切にする。